「マンガ学への挑戦」

BSマンガ夜話でもお馴染み、夏目房之介さんの2004年の著作。

ざっと通読しただけですが、触りの紹介をば。

問題意識 「マンガは誰のものか」

マンガ批評は、現在、民間のライターの副業として為されています。
この積み重ねを踏まえ、体系的な「マンガ論・マンガ学」への展開へ目鼻をつけたい。
まずは批評をする枠組み*1を整理して、地ならしを図りましょう。


こういう本です。
全体を牽引するキーワードは「マンガは誰のものか?」
あまりぴんと来ないなぁ? と思うのですがw
夏目さんによると、この問いにどう答えるかが、評論者の論旨を理解するうえで、一つの鍵になるそうです。

状況への指摘 「真面目に考えるために必要なこと」

「挑戦」とあるように、エッセイ風で親しみやすい文章です。
これまで為されたマンガ評論が、論者ごとに紹介されます。
一方で、夏目さんがマンガをどう考察して、どんな問題を見つけたのかが整理・紹介されます。
両者を俯瞰した上で、
「マンガを真面目に評論・研究するには、まだ日本の状況は未成熟」だと指摘しています。


一つの問題は、研究の現場と、産業振興としての戦略とに接点が無いこと。
研究の成果が、具体的な市場に活かされてはじめて、その研究で「食える」訳で。
学問の一分野として「食える=成立する」には、基礎研究も社会環境も整っておらず、抽象的な戦略理念ばかりが空転していませんか、という投げかけがありました。
この辺は、マンガ論に手をつけた一人としての夏目さんのもどかしさ、のようなものがあるのかも?


私も、「好きなマンガを一本取り上げて、現代人の『愛』の捉え方について発表せよ」なんて課題を出されたときには泡食いました。
何かを、社会的な枠組みから論じるときには、「それが何とどう関係しているのか」という具体的な資料を集めなきゃいけないわけで。
一人でそれをやろうというのは、確かに気の遠くなるほど非効率な話だというのは、よく分かります。

そして大雑把な感想

こういう「論じる立場」について語る本は珍しいというか、他人の視界を借りるようで、読んでいて単純に面白いです。
広く浅く、の本なのでトピックが多く、刺激的。
ついつい読みふけって時間オーバーになりがちな自分には、ちょうど良い思考材料になりそうです。

*1:フレーミング。話し手が、論じる対象について持っている認識。論者が拠っている立場。準拠枠