落日の剣、読了

さて、サトクリフの『落日の剣〈下〉王の苦悩と悲劇―真実のアーサー王の物語』を読み終えました。返却期限ぎりぎりで読むのは計画性なさ過ぎだ、自分。
アーサー王伝説そのものは、一応岩波文庫の『中世騎士物語 (岩波文庫)』を読んでいたので、大まかな流れに付いては、その成立の歴史も含めて知ってはいました。けれど、これはもっと違う、意欲的なものでした。
面白い、この一語に尽きるのですが、読んでいて強く思うのは、歴史小説のスタンスで書かれたことで、『現在に繋がる物語』としての広がりと力強さを備えているということです。
物語と言うのは、それがファンタジーであれ、歴史小説であれ、ページの最後まで語られてしえば、そこでお終いになる架空の話です。だから物語よりも過去や未来のことは、あまり触れられないのがセオリーだ、と思っていたのですが。これは違った。登場人物たちはローマ=ブリテンの過去を受け継ぎ、それを未来へ繋げようと真剣に考えるし、未来のことを想像して笑い話にする。それがある種の凄みに映るのは、著者がローマを舞台にした歴史小説を幾冊も書いているからなのでしょうか。地味なのに、華があって、凄みがある。
…ひょっとすると、この物語が続いているのは、現在というより他の著作世界かも?

それでいて、アーサー王伝説が透けて見えるような場面の華も良い。オリオンの七つ星を束の宝石に頂いた光の剣。洒落っ気のある風流さは、見物です。

一貫して語り手であるアルトスが、どんな状況でこの物語を語っているのか。それに対する恐ろしさと興味も、読み進めていくためのインセンティブになっていて上手すぎるくすぐり。
…こうなると再話の方も気になるな…。機会があれば読んでみたいところ。